今回はJacobiの楕円関数についてまとめます。
sn関数、cn関数、dn関数の定義から始めて、
三角関数
定義
sn関数
さて、三角関数と楕円関数の関係ですが、具体的にいうと、正弦関数の逆関数が
によって定義されると思えたわけですが、
Jacobiの楕円関数のうちのsn関数と呼ばれる関数の逆関数が
によって定義されます。
両者の定義を見比べてわかるように、 とすれば後者は前者に一致します。
つまり
すなわち
です。このパラメタ のことをJacobiの楕円関数の母数と呼びます。また とすると
より、 とおいて
から
この式を について解くと:
solve((1+x)/(1-x)=exp(2*u), x);
よって
すなわち
がわかります。
以上より、sn関数 はパラメタ によって
と を連続的に補間するような関数であることがわかります。
dn関数
母数 を含んだ余弦関数の拡張の亜種として
を定義します。定義から
また
です。
以上がJacobiの楕円関数の、sn関数、cn関数、dn関数と呼ばれるものの定義です。
以下では、これらの関数の性質をもう少し詳しくみていきます。
加法定理
三角関数を拡張したようなものである楕円関数には、加法定理に相当する公式があります。
それを証明していくのですが、ウォーミングアップとして以下の線形な関数
の"加法定理"をみてみましょう。証明のテクニックは楕円関数の場合と全く同様です。
いま仰々しく と書いていますが、
要は という恒等関数のことで、その"加法定理"とはつまり"公式"
のことです。
線形な関数の"加法定理"
さて、 とし、関係式
をみたすような を求めてみましょう。もしこのような が求まれば
より
によって関数 の"加法定理"が求められるはずです。
さて、いま微小変位 をとったとき、
式 右辺の を増加させないような場合を考えてみましょう:
式 から式 を引き算して、 が微小であることを用いると
となります。このような変位を実現する1パラメタ のフローは
で与えられます。-フローの方程式は
で与えられます。すると
となって、 という量が -フローのもとで不変な量であることがわかります。
また、-フローの構成から
であることに注意すると、一般に
と書けることがわかります。ところが式 で とおくと です:
等式が恒等的に成り立つためには が要請されますから、結局
と求まります。すると上で述べたように
が導かれ、関数 の"加法定理"が示されます。
楕円関数の加法定理
さて、以上の準備のもとに、楕円関数の加法定理を証明してみましょう。
sn関数の加法定理
まずはsn関数についてです。恒等関数の場合と同様に
とし、関係式
をみたすような を求めてみましょう。
ただし です。よって
また、母数 は記号の簡略化のために省略しておきます。
ここでも式 右辺の を増加させない微小変位 を考えます:
となります。このような変位を実現する1パラメタ のフローは
で与えられます。-フローの方程式は
で与えられます。すると
同様にして
これらの式を組み合わせて
また
これらの式を辺々割り算すれば
さらに両辺に を掛けると
すると
よって一般に -フローで不変な量が
で与えられます。いま とおくと なので
以上によりsn関数の加法定理を得ます:
cn関数の加法定理
cn関数の定義から
ここで分子の根号内の量は、以下のような平方で表されます:
これによって根号を外せますが、 で恒等的に等号が成り立つように符号に注意して、
cn関数の加法定理
を得ます。
dn関数の加法定理
dn関数の定義から
cn関数の場合と同様にsn関数の加法定理の式を代入し、
式を整理すると以下のdn関数の加法定理を得ます: